Act...6
「美味しいーーーーー!!」
一口目の前の食事を口にした瞬間、
満面の笑みを零すメイジャ。
「咽せるわよ。そんな急いで食べたら。」
ペイは、
子供の様に急いでがっつくメイジャの口元を、
傍にあったナプキンで、仕方なく拭いてやる。
「う・・・っ!!ゲホ・・っ!ゲホ!」
途端に喉に詰まらせたらしいメイジャが、苦しそうにする。
「ほら、だから言ったじゃないの、馬鹿ね。
ゆっくり味わいなさい。
食事は逃げたりしないわよ。」
背中を軽くさすってやると、少し楽になったらしい。
「御免〜。
だって・・・・・ペイの手料理・・・凄く美味しいんだもん。」
水を飲んで落ち着くと、さっそく感想を漏らす。
「お世辞言っても何も出ないわよ。
それに暫くろくな物食べてなかったんでしょ?
なら、その所為よ。」
表情一つ変えず、私はそのまま食器を片付ける。
「ええ〜。そんな事ないよ!!
ペイが上手だからだよ〜。」
メイジャが必死に抗議する。
「料理なんて食材が手元にあれば、
だれだって簡単に美味な物を作れるわよ。
さして技量なんて必要ないわ。」
「でも、ペイは手際だって凄く良かったじゃない。
腕がいい証拠だよ〜。
僕にも作り方教えて欲しいくらい。」
「アンタでも出来るわよ。」
「そう?なら今度頑張ってみよう!
・・・・ところでペイは何か食べたりしないの?」
「機械の私は食料なんて必要ないわよ。
人間とは違うんだから。
活性化オイルさえあれば充分よ。
何もなくてもそれなりに凌げるし。」
「そっか。
機械人間が多くなったのは戦争後だから、
僕あんまり解らないんだ。
失礼な事言っちゃったら御免ね?
単体の機械なら結構勉強したんだけど・・。」
「いいわよ。別に今更気にしないし。」
メイジャは静かに<御馳走様でした>と告げると、
自分自ら片付けをし始めた。
「それなりに理解できてるじゃない。私が言った事。」
「え?」
不意を突かれたメイジャが、
食器を置いた後不思議そうにこちらを振り向く。
「自分で固持できることは、やりなさいよって事。」
「あ、うん!!
だってペイにこんなに助けて貰ってるんだから、
僕に出来る事はやらなくちゃ!」
「その意気なら明日からの妹捜しも平気ね。」
「・・・・うん。・・・そだね。」
先程とはうって変わったメイジャの曇った声は、
はっきりと鮮明にその場の雰囲気に残る。
どうやらこの直接的な言葉は禁句らしい。
「メイジャ・・・。
アンタはキャンディがいるという望みを、
決して捨てないで此処まで来たわけよね?」
「え?・・うん!勿論。」
「私には、今まで兄妹の存在なんて理解しようにもなかったけど、
正直言ってアンタを見てると、
何となくその気持ち解らなくもない。
けれど、今アンタがそうやって後ろ向きになってへこんでばかりいたら、
一体誰が妹の存在を確かめるの?
唯一の兄妹であるアンタしか、可能じゃないのよ?」
「・・・・・。」
「・・・・・・不確かである現実は、
どうしても相容れない事の方が多い。
だからこそ、追い求めなければいけない時がある。
・・・・・・信じなさい。自分の力を。」
ペイは、相変わらず落ち込んでいるメイジャに、
励まし・・・とまではいかないが、それなりの言葉を伝えた。
「ペイ・・・・」
メイジャが真っ直ぐに、ペイの表情を読み取る。
「さ、食べ終えたなら先に就寝すればいいわ。
片付けなら、私がやった方が早いから。」
それを上手く滑らせる様に話を区切ると、
メイジャがペイの左手を軽く握った。
「・・・メイジャ?」
ペイが不思議そうに振り返ると、
メイジャはあるものをそこに押し込めた。
「・・・これは?」
手の中に侵入してきたのは、綺麗に光沢を持った石だった。
滑りやすく艶のある感触で、手にすぐに馴染む様な感覚が伝わる。
「・・・これね、僕の去年の誕生日にキャンディがくれた物なんだ。
<メイジャに大切な人が出来た時に、これを共有してね>って、
・・そう言われてから僕の宝物なんだ。」
「そう・・・・。」
「良かったらこれ・・・ペイが持っててくれないかな?」
覗き込む様にして私を見上げるメイジャ。
ペイは、その台詞に躊躇し、驚いた。
「・・・アンタが貰った物なんでしょう?
そんな大切な物なら自分で持ってるべきなんじゃないの?
たった3日やそこら共にした相手に、安易に渡す物じゃないわ。」
メイジャは首を横に振る。
「ペイ・・・、いいんだ。
この石は確かに僕がキャンディから譲り受けた大切な物だよ。
けどね、正直これを思い出して手に取る度に、
僕はどうしてもキャンディの存在に甘えてしまう。」
「でも・・それは・・・・・・。」
「聞いて、ペイ。
いつも僕はキャンディに支え、
励まして貰い続けて、自分では何一つ完璧に出来なかった。
それを当たり前の様に感じたままではいけない。
僕自身の為にも、キャンディの為にも・・。」
「メイジャ・・・。」
「これからは逆の立場で、僕がキャンディを支えたい。
今、僕自身が、ペイの言った強さを持って、前に進みたいから。」
メイジャの瞳に強い意志が存在していた。
迷いの感情がどうやら薄れてきたらしい。
「・・・・そこまで言うなら・・・・解ったわ。
・・・預かっておく。」
「有り難う。
ペイが持っていてくれるなら、きっとキャンディも喜ぶよ。」
そして、また再度、柔らかな表情へと変化する。
「・・・今日はもう寝なさいメイジャ。
隣に少し旧型だけどベットがあるから。
・・・・月も・・・窓から良く見える。」
「・・・・そうだね。
道を照らしてくれる・・・標になるといいな。
・・・・・・・お休み、ペイ。」
「・・・ええ。」
ペイが窓の珊に手を添えながら静かに漏らすと、
そのままメイジャは隣のドアを閉めた。
「・・・・・・・・・・・・・・メイジャ。
・・・・・・<人間>の・・・・・・少年・・・か。」
最小の声音を零したペイは、
そのまま片付けを手際良く終え、
体内の電磁発電スイッチを落とし、就寝した。
・・・・珍しく・・・風の向きが切り替わった夜だった。
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