Act...3
「ところで、・・・アンタ、名前は?」
「あ、僕メイジャって言うんです!!お姉ちゃんは?」
「・・・・・・・・ペイ。」
「ペイ・・・。」
「いきなり呼び捨て?結構大きく出たわね。」
「あっ!!ご、御免なさい!!嫌でしたか?」
「・・・・・・・・別に。
<さん>付けとかされるのは気持ち悪いし、遠慮願いたいわ。」
「じゃあこのままで・・・・いいですか?」
先刻から気になってはいたが、
この少年は何故、自分にこんなに敬語を所持するのだろう。
ペイは疑問符を浮かべていた。
「いいわよ。好きにしたら。
只、丁寧口調にならないでくれる?」
「ごっ、御免なさ・・・・じゃない、御免!!」
「御免もさっきから二度目よ。
本当に面白いというか、・・・変というか・・・、
退屈しないわね・・・メイジャ。」
「あ・・・!!」
「・・・何?」
「ペイ・・・・今・・・・笑った?」
指摘されるまで、ペイは気付かなかった。
自分は・・・笑っていたのだという事に。
「何、仏頂面だって言いたかったわけ?」
「ち、違う!!只・・・・優しい笑い方するんだなって・・・思ったんだ。」
「優しい・・・・ね。」
随分とこの存在を、酷く殺伐とした形で受け止めていたから、
「笑顔」なんて暫く忘れていた。
自分がもう人間では無くなった事もあって、
<感情>に揺さぶられる事にも諦めが生じていたから。
・・・・それが・・・こうして人間の少年によって微かではあるが、
溶かされた気がしている。
不思議な感覚だった。
でも・・・・。
これはあくまで、「気紛れな寄り道」なのだ。
それを忘れてはいけない。
「・・・妹の特徴は?」
「え?」
「解らなければ捜索は出来ないわよ。」
「あ、そっか。そうだね。
キャンディはね、僕と同じ黒髪で、目がぱっちりしてるんだ。。」
「兄妹で、同じ色なのね。」
「う、うん。」
「・・・実際何処にでもある様な特徴だけど、
ないよりは、マシでしょうね。」
「・・・ははは。
あ、そうだ!ね、ペイ!折角こうして知り合えたんだから、
僕、ペイの事もっと沢山知りたいな!
ペイは何歳?どうして一人でいるの?
誰かと一緒じゃないの?」
「・・・悪いけど、質問に答える義務はないわ。」
「あ・・・・。」
急激に寂しそうな瞳で私を見つめるメイジャ。
「・・・別に怒ったわけじゃない。」
「ほ、本当に?」
「諄いわよ。」
「僕が気に障る事を言っちゃったのなら謝る。
でも、ペイが・・・その・・・、
どうしてこんな所にいるのかなって事は聞いちゃ駄目かな?」
相変わらず弱々しく、
気持ちを伺う様に、メイジャが尋ねて来る。
・・・・別にメイジャに聞かれた事くらい普通に返答しても問題はない。
だが・・・ペイには今、あまり他人との距離を極端に埋めようとは思えないのだ。
メイジャの妹捜索だって、一種の何ら重要性のない関連事だ。
「メイジャ・・・。
アンタはれっきとした人間・・・なのよね?」
「え、うん・・・。」
「なら、私の事なんて詳しく知らない方がいいわ。」
ペイは曖昧に話を逸らした。
「ペイは・・・・人間機械・・・なんだよね。」
「そうよ。」
「ん、でも別におかしな事でもないよね。
区別なんて、ハッキリ出来ない世の中になってるんだし。」
「・・・・。」
「ペイ・・・?」
「メイジャ、アンタは私が人間機械だって理解して、
それでも何の嫌悪もないの?」
「ないよ?・・・ああ、ペイが気にしてるのは、
<人間>が<人間機械>を嫌ってる事?
その事に関しては僕もある人から詳しく聞いた事があるよ。
でも、僕は全然嫌じゃないよ。
<異質>だって思わないから。」
平然と語るその様子が、別に世辞で言ってる事ではないのを悟らせる。
「・・・・一度、死んでいると解っていても?」
「人間誰しも、生には終わりがあるでしょ?
僕にはそれを偉そうには語れないけど。」
「・・・そうね。そこまで理解してるなら大したものね。
メイジャ、年は?」
「僕?僕は13。ペイは?」
「・・・・・18。」
「18かあ〜。凄くしっかりしてる風に見えたから、
もう20歳を超えてると思ってた。」
それは・・・こっちの台詞だ。
確かに出会った時はポロポロと泣いていたりもしたから、
あまり思わなかったけれど、
・・・一心には随分成長を遂げている様に感じる。
「僕は・・・弱いよ。
世界大戦が起きてからは・・・ますますそれを実感したんだ。」
・・・・・世界大戦。
そう、あれが起きる前の頃はペイも至って「人間」だったのだ。
そして、ごく普通に毎日を楽しんでいた。
「メイジャ・・・。」
「ん?何?」
「アンタにとってそのキャンディって子は、凄く大切だったわけ?」
「当たり前だよ!!
だって、キャンディは僕の大事な大事な妹なんだから!!」
メイジャはいきなり大きな声で喋った。
「・・・そう。
でも世の中には血が繋がっていても、
いがみ合う家族っていうのもあるでしょう?」
「ううん、僕達はそうじゃなかったよ。
キャンディはね、ちょっと我が儘だけど、とっても優しいんだ。
いっつも兄である僕の方が頼りなくって、
<もうメイジャってば>はキャンディの口癖だった気がする。
僕が助けて貰ってばかりだったんだ。」
嬉しそうに話すメイジャ。
随分と表情が穏やかだった。
「仲が良かったわけ・・・ね。」
「うん、とっても!自慢の妹だったんだよ!」
「そう・・・。」
「でも・・・あの戦争のせいで・・・キャンディは・・・・。」
「行方・・・不明・・・。」
「うん・・・。
本当に今、何処で何をしているんだろう・・・。
僕、とっても心配で堪らないんだ。
まして、僕とは違って女の子だし・・・・。
手掛かりだってあまりにも少なすぎる。
まして生きてるかどうかさえも・・・。」
"パシッ"
「痛っ・・・!何するのペイ!」
ペイは、思わず、メイジャの頬を両手で軽く叩いていた。
「メイジャ、私はアンタに義理立てするつもりはないわ。
けど、その"メイジャお兄ちゃんの虚栄心"ぐらいはあるんじゃないの?
ここまで一人で探しに来たんだから。」
「ペイ・・・。」
「こっちも親切心ばかりさらけ出してるわけにはいかない。
私より年下だからって特別扱いはしないわ。
妹捜索に強力する分、
自分自身の手で固持出来ることは、確実に吸収しなさい。」
「うん・・・!!」
メイジャは又、ふわっとした笑顔を此方に向ける。
"無邪気な表情・・・。
すうっと何か柔らかい風が一陣、吹き抜けた気がした。
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