Act...4


けれど・・・。

無邪気な瞳だからこそ、
現実感を直視しなくてはならない「死」なんてものを知って欲しくない。

"死"は本当に辛く、そして苦しいのだから・・・。




ペイは、ある過去を瞬時に思い出した。

出来れば、全て消滅してしまい、
忘れてしまった方がずっと楽になれるのかも知れなかった過去を。


それは・・・・メイジャが言う"大切な人"の「死」だった。




・・・・ペイが「人間」として死を迎えたのは・・・今のメイジャと同じ13歳の頃だった。

機械として生き始めたのは、それから一年後。

ペイにとって「忘却」を捨て去る事は今だに出来なかった。

『ペイ・・・笑って・・・。』

『・・・・・』

『お母さんは、ペイが笑った顔を見ることが何よりの元気の源なのよ・・』

『笑えないよ・・・!!嫌だよ!!死なないで!!!お母さん!!』

『ペイ・・・お願いよ・・・。貴女に機械としての命を授けてくれた
・・・あの人を捜して・・・。きっと幸せに・・・』

『あの・・人?あの人って誰!!誰なのお母さん!!』

『あの人・・よ。
ペイ・・・・、これから先、例えどんな困難に襲われたとしても、
<生きる事>を決して諦めたりしないで。

これだけは・・・・ずっと・・・・忘れ・・・ない・・・で・・・・生き・・・て・・』

『お母さんっ!!?お母さん!!?
いや・・・・嫌・・・・目を・・・・目を覚まして・・・!!お母さんーーーーー!!』




・・・母の死は過労死だった。

ペイを養っていく為に、賃金と疲労を天秤にかけられなくなっていたのだ。

いつもどんな時も、人間の時も機械になってからも、
傍で暖かく支えてくれていた存在が消えた。

記憶が部分的に消失した私を決して突き放す事をせず、
いつまでも育んでくれた日々・・。
永遠に・・・・もう・・・あの微笑みは私の瞳に映る事はない。



涙を・・・・・流せなかった。

どんなに悲しくても、
苦痛でも・・・・ペイは人間を逸脱した・・・「機械」であるから。

全てを失い、全てが暗転した。

何も拝見、拝聴したくない。

何もかもが信じられない。

胸部をグシャグシャに無惨に斬りつけられた様な激痛が走った。



どうして・・・・何故・・・自分から大切な・・・、
たった一つの大切なものを奪還してしまうのかと。

ペイには母を、自分の様にもう一度「機械として生かす」事は不可能だった。

膨大な金額を用いる事など出来なかった上、手術を施してくれる者もいなかった。

・・・・父が。

こんな時、父がいたら・・・少しは何かが変化していたのだろうか。

父は、幼い時に死去したと母から聞かされていた。

今さら作り替える事など・・・無理な過去・・・。

けれど・・・それでも・・・。





「・・・ペイ?」

気が付くと、メイジャが私の顔を覗き込んでいた。

「あ・・・。」

か細い声で、自我を取り戻す。

「随分と怖い表情になってたよ?
ほら、笑って?ペイは笑っていた方がいいよ?」

「!」

・・・・同じ・・・事・・・。

「・・・ペイ?大丈夫?」

「・・・・・・・・・・・・お母さん・・・・。」

「え?」

「あ・・・!・・・・・・何でも・・・ないわ。」

「そう?ならいいけど。」

母親が・・・・もう一度その場に立って、
言葉を再現しているかとさえ、感じた。


そんな事・・・ある筈なんて・・・・ないのに。




「ペイ、取りあえずこれからどうしようか?
主にどの辺り捜せばいいかな・・?」

ペイは、メイジャが切り替えた話を上手く利用して、返答をした。

「・・・聞き込みをするのが一番妥当ね。」

「そうだね。それいいかも。」

「此処は人出も少ない上、目に付き憎いわ。
少し広場に出た方がいい。」

「あ、そうか。やっぱりペイは機転が回るね。
協力してくれて有り難う。」

「・・・いいわよ。いちいち礼なんて。」

「ううん。本当に感謝してる。
僕一人では何も思いつかなかったから。
いくら手紙にヒントがあったって難しいよ。」



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