Act...27


ペイ達一行が悲しみの波に呑まれる中、
とある場所の一角で、奇妙な声が殺伐と響いていた。



「・・・これぞ私が求める兵器。
これでまた一歩・・・可能性に近付いた。」

「マスター・・お呼びでしょうか。」

「・・来たか。」

「現状は、上から及ばずながら聞き及んでおります。」

「・・・そうか。
・・・・・まあ言わずとも・・お前なら理解しているだろう。」

「・・・はい。」

「・・・精々遊んでやるといい。」

「・・了解しました。失礼します。」

暗い場所より、それに伴う黒い影。

・・・その一つが姿を消した。



「・・・・悪く思うな。
・・・・・・・既に・・・・何もないのだ。この手には。」

重たい言葉は、その場で掻き消えた。









「・・・・キャンディ。」

うわ言の様にキャンディの名を呟くメイジャ。

ペイはその様子を伺っていた。

衝撃の出来事が起こってから、メイジャはふっと意識を失った。

・・・今までの疲労が臨界点を突破したのだろう、とペイは実感していた。

そしてメイジャの体を運び、元のペイの家まで戻って来ていた。


メイジャが寝台の上で眠っている間、
ペイとヘヴィレスの手当てによって、傷は保護された。

しかし、メイジャのとっての「心の傷」は、
再び大きく抉られてしまったのだ。

ペイはメイジャの傷にそっと手を触れ、
何とも言えない表情を向けた。



−先刻とは打って変わって、重たい沈黙が流れた。

ただ黙り込む事で、静寂を保つ。

その静けさで唯一安堵を齎すのは「敵が去った」という事実だけ。


・・・束の間のほんの小さな安堵感。

居た堪れない時間の流れが、それだけを痛感させた。



ペイはメイジャを起こさぬ様に、そっと手を放すと、
壁を背にして考え込んでいるヘヴィレスに視線を向けた。

メイジャが目を覚ますまでの間、ここには二人だけ。

ペイはヘヴィレスを見つめ、
その存在をふと考え始めた。


ここまでの時間、「仮の仲間」の様に共に進んで来たが、
ペイは「完全にヘヴィレスの存在を受け入れる事」は出来ないでいた。

固有された性格は兎も角として、
どうもはしばしで、ペイには何かが引っ掛かるのだ。

だが、疑心を向ける事の道は、
残酷なる現実を齎すことを、ペイは多少なりとも理解している。


・・・・今はまだ確信がない。


だが、ペイには何故か隠せない思いがあった。


それは、『何処か同じ血の匂い』がすると言う事。


酷く懐かしい様な・・それでいて心を締め付けられる様な・・・。

何がペイにそんな心情を持たせているのかは、
正直本人にも解らなかった。

だが、そんな思いの所為で、
ペイはヘヴィレスの全てを突き放す事は出来ずに居た。


そして・・・それはヘヴィレス側も又然り・・・。



「ヘヴィレス・・・・?」

「・・・何だい?」

沈黙を破ったのはペイの方だった。


「・・・今、何を考えていた?」

話掛ける内容は多少ありきたりだったかも知れない。

しかし、ペイはこれからの行動としての意味で、
どうしてもヘヴィレスに問う必要があった。


「・・・さて、・・・どうするべきかな、とね」

「・・・真面目に答えて。」

「おや?僕としては充分真面目に答えたつもりなんだけど。
・・・・・・まあ、一個人の意見を言わせて貰うならば、
キャンディの遺体は明らかに『研究所』と示す場所に持ち帰られただろうね。」

「・・・・やはり・・・そうなるのね。」

「あくまで僕の推測さ。
・・・・だが、あの様子で気付いた点が幾つかあるな。」

「え?」


「あのキャンディの体は、『生身』ではないだろう?」


「・・・ヘヴィレス。何故それを・・・。」

「初めて遺体を見た時、メイジャと明らかに似ていない事から、
何処かそんな予感はしていた。
・・・・その事実はキャンディ本人から聞いたんだろう?」

「ええ・・・。
私やヘヴィレスと違って、別の異種形復元体らしいわ。」

「・・・となると、意識を埋め込む手術を何者かに施された訳か。」

「・・・・ヘヴィレス、アンタ随分詳しいのね。」

ペイが少し驚いた表情で、ヘヴィレスを見る。

「・・・僕を疑ってみるかい?」

何とも愉快そうな表情を向け、
嗜める言い方をする。

・・・・これはヘヴィレス特有の場を変えようとする試みだ。

それを理解してしまった以上、疑心は・・持ちたくなかった。


「・・・いいえ。
ただ、ヘヴィレス、貴方は私達と会った時に言ったわよね?
『機械人間の構造や、辿るルートに関心がある』と。
・・・・それはどういう意味?」


「・・・・・。」

真剣なペイの表情を見て、一瞬押し黙るヘヴィレス。

しかし、すぐにいつもの彼特有の笑みになる。

「詮索はフェアじゃない・・って言っただろう?」

「それはヘヴィレス「貴方自身」についてでしょう?
私が聞きたいのは、少し違うわ。
全体的に生かされている『人間機械』全てのルートについてよ。」

「・・・ペイ。君は何処まで知っているんだい?
それとも・・・全てに答えが出てないのかい?」

「・・・・悔しいけど。『後者』に近いわ。
私は人間機械として生還した経路を一つも覚えていないから。
情報を与えてくれたのは・・生還していたキャンディにだけよ。」

「そのキャンディから話は聞いているんだろう?」

「あれはキャンディが研究所で見た事。
自分がどうなったかという結果だけの事実。
・・・・・・ほんの一過程だけなのよ。」

それでも、あそこまで懸命に私に語ってくれた。

そんなキャンディのメイジャに向けられた笑顔を思い出すと、
それだけでペイの心は痛みを感じた。


「成程・・・・。
要するにペイ、君はそれ以上の事実を、
僕が知っているのではないか、と踏んだ訳だ。
随分な挑戦者だね。」

「貴方が、他の人材より秘密主義な事は見ていて解る。
・・・・けれど、これからも共に行くと言うならば、
それ相応に協力してくれてもいいんじゃない?」


「・・・目的を有する瞳・・・か。
・・・・・やはり随分似ているな。」

「・・・え?」

ヘヴィレスがぼそりと何かを呟いたが、
ペイにはそれが良く聞き取れなかった。



「・・・・まあ、そこまで言われては仕方ないね。
結果的に君が追求する事実と、
僕が知りえる知識が一致するかどうかは、
あまり期待をしないで欲しいが・・・どうだい?」

「・・・構わないわ。
・・・・・・今はとにかく情報が欲しいから。」


「・・・部屋を移ろう。
・・・・・・メイジャを起こしてしまいたくないだろう?」

「ええ・・・。
有難う・・・・ヘヴィレス。」

「はは。珍しいね、君が僕に礼なんて。」

「たまにはいいでしょう。」

「・・・まあ、その言葉は話を聞いた後に欲しいものだが。」


そう言ったヘヴィレスの瞳に、
やや陰りが見えた事を、ペイは不思議に思っていた。



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