Act...28
ペイは出来るだけメイジャに害にならない様に、
奥の部屋にヘヴィレスを誘導した。
「・・・この部屋なら大丈夫そうね。」
「ではお言葉に甘えるよ。」
「好きな所に座ってくれていいわ。」
「御丁寧にどうも。」
ヘヴィレスは軽く片手を挙げて、寝台に腰掛けた。
「・・・さて。何から話すべきかな。」
「情報になるなら何でもいいわ。
・・・研究所の実態や、
これからの目的に関与する事は特に優先して欲しい。」
「やれやれ。・・・僕はあまり説明上手じゃないんだけどね。」
「今は頼りが少ない。頼むわ、ヘヴィレス。」
隣に座ったペイは、真剣な瞳でヘヴィレスを見る。
「・・・・・。」
それを見て一瞬無言になるヘヴィレス。
だが、すぐに口を再び開いた。
「まあ・・・・それでもいいと君が言うのなら構わないが。
そうだな・・・・そもそもペイは『機械人間』そのものに固執があった様だね。」
「ええ・・・まあ。」
「ならばそれをメインに話そう。
・・・・・そもそも機械人間というのは、そこに行きつくまで何通りかの道がある。」
「・・・道?」
「ああ。
まずはペイ、君の様に一度人間としての『死』を体験して、
意識を本来自らの形状に移された場合だ。・・・・パターン1とでもしよう。」
「・・・パターン1。・・・他には?」
「急がなくても答えは逃げないさ。
・・・・次にパターン2だ。
パターン1と同じ様に死を体験した後、意識を別の形状に移した場合。
いわば、キャンディの様に異種形復元体となった者の事だ。」
「キャンディはあの時、自分を稀の様に言っていたけど・・・。」
「確率としてはパターン1より少ないだろう。
このパターン2には、本来の意識に適合一致した器が別途必要になる。
相性が悪ければそれだけで遺伝子反発が起こる。」
「・・・成程。」
「そして更にパターン3。
・・・これは、自らの生身の体がまだ命を失くしていない状態、
つまり、人間として生きながらえている状態のままで、機械人間となる形。
このパターンは、大戦中からその後の間、最も多いとされている。」
「・・・・自分の体を進んで機械にしようとするとはね。」
「戦争渦中の人材にしてみれば、
そうする事で守れるものもあると踏んだのだろうさ。」
ヘヴィレスはまるで達観するかの様な言い回しで、
平然とペイの言葉をかわした。
「ヘヴィレス。本来『機械人間』というものはどういう理由で出来たの?」
「それを僕なんかに聞くのかい、君は。」
「・・・え?」
「それはある意味、
現在存在する機械人間の大元を聞いてるのと同じだろう?」
「・・・・まあ・・・確かにそうね。」
ペイが僅かに目を伏せる。
「・・・まあ少なくとも、
初期の頃は今みたいに戦乱に使用される意図ではなかっただろう。
もう一度『生』を求める概念が大きく活性化された・・・とでも言うべきかな。」
「もう一度・・・・生きる・・・・か。」
「だが、本来僕達機械人間は、
人間の本質の行く末から逸脱しているに過ぎない。
人間が生きるというその定義は、
『もう一度』などという言葉を望んではいけないからだ。」
「ヘヴィレス・・・。」
「人間としての一生を終え、誰もがまだ生きたいという私念を持つ。
だが、様々な理由でそれが叶わず、
『機械人間』の踏み台になった者も沢山いる。」
ペイは、語り続けるヘヴィレスの言葉を聞いて、
再び自分の母親と、
機械人間になって尚遺体になったキャンディを思い起こした。
「だが・・・人間の本質は浅ましい考えさえも産む。
それが今、君が追いかけている『研究所』なんだろう?ペイ。」
「ええ。・・・・そうね。」
ヘヴィレスのその台詞にはまるで鉛の重さでもあるかの様で、
それを基盤にペイは考えた。
生復元の口火を切られた『機械人間作成』
目的要素が謎に満ちている『殺戮人間作成』
研究所に連れて行かれたであろうキャンディの機械人間としての『遺体』
その経路に関わりがあったメイジャ達の親代わりの『シスター』
・・・・・更に自分自身を確かめる為に抱える『生きる証』
歩めば歩む程に、まるで導かれた様な準路に誘われる。
ペイは何処かその拭い切れない感覚を抱えていた。
そうして押し黙ってしまったペイに合図を送るヘヴィレス。
「・・・・あ。」
パチンと鳴らしたヘヴィレスの指から発した光を見て、
放心していたペイは、ハッと気が付いた。
「わ・・・悪かったわ。少し考え事してた。」
「体内充電切れたのかと思ったよ。」
業とらしそうにヘヴィレスが、愉快そうに笑う。
「一応、高性能で作られているんだけど。」
ペイが嫌味の様にそう言い放つと、
「それでこそ君だ」とばかりにヘヴィレスが肩を軽く叩いた。
「取り合えず大体は解ってきたから、いいわ。
態々時間取らせたわね。」
「いいや。君が満足いったならば別に。
・・・・・・・あ、そうだ。もう一つパターンがあったのを忘れていた。」
「パターン・・・て、ああ、さっきの。」
「そうさ。基本原型体、異種復元体、構成基盤体・・・・とその他に。」
「パターン4ね。・・・どういった形なの?」
「・・・・正式に言うと、ある意味このパターン4は『形』がない。」
「形・・・がない?それはどういう意味?」
「これがいわば一番の例外だ。」
「例外?・・・・不完全なの?」
ペイにそう問われて、ヘヴィレスは珍しく意味深な顔になる。
「・・・概念離脱体。まあ固有の『器』はないが名称的にはそう言われている。
要するに、一度何かの症状で強く残留した意識が、
別の機械人間の一人の意識に入り込む形だ。
つまり、一つの「器」の中に二人の意識が共有する形。これがパターン4だ。」
「そんなケース・・・有り得るの?」
「さあね。僕も実際を見た訳ではないから何とも言い難い。
只、僕が聞いた中での話だ。」
「聞いたって・・・・あの、ヘヴィレス。
私先刻からずっと考えてた事があるんだけど・・・構わない?」
「何だい?面倒でないなら答えるけど?」
「・・・・そこまでの情報・・・・誰から聞いたの?
まさか全て元から知っていた・・・とかではないんでしょう?」
ペイがヘヴィレスの瞳をじっと見つめる。
「何・・・・そこまで知りたいのかい?」
「その出所があるのなら知っておきたい。今後の為にも。」
ペイが真剣な表情でその言葉に続く答えを待つ。
だが、そこで返ってきたヘヴィレスの言葉はこうだった。
「唇でのキス一回で手を打とう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その台詞にペイの瞳が明らかに怒りに変わる。
「冗談だよ、冗談。
・・・・・・・・人手に聞いた話はあまり覚えてない。すまないが。」
「・・・・アンタよくメイジャがあの状態の時に軽い口効けるわね。
もういいわ。そろそろメイジャの様子を見て来る。
・・・・まあ、一感謝だけはしておくわ。」
「はいはい。じゃあ僕もすぐ行く。
今回は随分喋り疲れたよ。」
ペイは静かに部屋を出て、メイジャの元へ向かった。
「・・・・聞く必要のない事もあるって事さ。」
ペイが部屋を出て暫く後、
ヘヴィレスの口から出たその台詞は宙に流れて消えたのだった。
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