Act...24


『それより、今居る現在地を正確に教えて頂けますか?
大変申し訳ないのですが、人手が足りないため、
私は大戦後の負傷者への治療に回らないといけません。
管理している病院の担当の者を、そちらに向かわせますので。』

「あ、はい。了解しました。少々待って頂けますか?」

ペイは、自分の耳の裏に接続されているパッチを外し、
そこの配線をとある差込口へ移し変えた。

普段通り、ペイの左目に正確な位置データが表示される。

それをそのままシスターに伝えた。



『解りました。
では、申し訳ないですが、暫くその場でお待ち下さい。』

「キャンディの遺体周辺は、
出来るだけ警戒体制を取って置きます。
申し訳ありませんが、出来るだけ急ぎでお願いしたいのですが。」

ペイは、先程狙ってきた不審者の存在を、
また再び脳裏に呼び戻した。

『はい。是非とも急がせます。』

「お願いします。
それでは・・メイジャ、いい?」

ペイは、メイジャに言い忘れている事がないか尋ねた。

「あ、うん。
ここからでいい。
・・・・シスター。ううん。
僕には『お母さん』だよね。勿論キャンディにも。
・・・・・今度必ず・・会いに行くよ。待っててね。」

「・・・だ、そうです。」

ペイがシスターに伝えると、
彼女から出た声は・・あたかも聖母マリアの様で。

『待っています。・・・メイジャ、ずっと。』

静かにそう言って、電源を切った。



「メイジャ・・・。」

ペイはメイジャへ向かって振り向いた。

「・・ん?」

「私は・・・自分が今までそうであったにも関らず、
『人間』という枠を、ずっと拒絶していた。
いえ、恐らく今もしている。
・・・・・何処かで動く・・・・・殺戮者の事を筆頭として。」

「・・・うん。」

「でも・・けれど、貴方とシスター・・。
そしてキャンディ。
その関係見たり聞いたりしていると、
全てを否定するのは早いかもしれないと・・・少なくとも・・そう思う。」

「ペイ・・・。」

メイジャの表情が、安堵感に包まれた様子になる。



「・・・ほっとするのはまだ早いんじゃないか、二人共?」

其処を遮ったのはヘヴィレスだった。

「・・・・・・あ、御免ね。」

メイジャが謝罪する。

「・・・まあ、そうね。
確かに今回はアンタの言う通りだわ。
油断は出来ない。」

「おや、珍しい。
てっきり否定されるかと思ったけどね。」

「・・一応正論だから。
それと、結構他人の事気にする性格だっていうのが解ったから・・かしらね。」

「・・ま、好きに思っててくれ。」

再びヘヴィレスが背を向ける。

これは癖・・なのだろうか。



「あ、そうそう。
ところで一つアンタに質問したいんだけど。」

「僕は『アンタ』という名前に改名したつもりはないが」

「はいはい。ヘヴィレスね。
・・・・で、答えてくれるわけ?
詮索嫌いさん。」

「質問の具合によるかな。」

ペイとヘヴィレスの変化球な会話に、またメイジャが少々焦っている。

「大丈夫よ、メイジャ。
何も取っ組み合いをするわけじゃないわ。」

「僕もそこまで野蛮なのはお断り願いたい。」

そう言って両手を挙げて『降参』の姿勢になる。

「・・・まあ、冗談はそこまでとして。
ヘヴィレス、貴方シスターと・・面識でもあるの?」

その質問をすると、
不思議な顔をしたメイジャがヘヴィレスに再び尋ねた。

「・・・え?・・・ヘヴィレス・・・?・・・そうなの?」

「・・その質問をされるかな、とは多少思っていた。」

「・・・て事は・・。事実なの?」

ペイが再度追求すると、ヘヴィレスはふっと笑った。

「・・勘違いしないでくれ。
僕が言いたいのは、シスターが僕の名前に反応したからだ。
ペイ、君もそれでその結論に行きついたんだろう?」

「・・ええ。」

「残念ながら彼女と会った事は一度もない。
声を聞いた事さえ今回が初めてだ。」

「・・・そう。」

不意に気になったのであくまで確認の為だったのだが、
本人は否定している。

「・・?」

メイジャもペイの顔と、ヘヴィレスの顔を交互に見て、きょとんとしている。

・・・・まあ、大した事ではない様だから良いと思うが。




風が相変わらずひたすらに耳に残る。

「機械」としてそれを感知する。

「人間」としてそれを感じ取る。


今・・・傍でバラバラになっている彼の妹は・・・
・・・・この風をどの様に捕えるのだろうか。

その思考さえも・・・「生きぬ者」には理解出来ないのだろうか。


只・・・そこに被った微かな砂だけが・・・
それを懸命に呼び戻そうとしているかに思えた。



退