Act...23
『・・・・保管・・ですか?』
シスターは少々メイジャの問いかけを不思議に思った様だった。
それに対してペイが答える。
「ご説明します。
つまり、此処に現在あるキャンディの遺体は・・その・・、
いい憎い事ですが・・正直原型をとどめてはおりません。」
ペイが言うと、メイジャに緊張感が走ったのが解った。
『・・・・そこまでに・・・。』
シスターも酷く悲しげな声になる。
「そこで、シスター。
メイジャによれば、貴方は医学に関して精通しているという話の様です。
そこで、一提案としてなんですが、
どうか何とかして、キャンディの『遺体』の復元をして欲しいんです。
・・それと同時に・・・・管理を。」
『・・・・それは・・。』
やはりシスターも思案している。
無理を言っているのは確かに承知の上である。
医学の経験がある者なら、なおさら死者の遺体を弄ることなど、
抵抗があるに違いないからだ。
しかし・・。
誰よりも、当人の兄であるメイジャが強くそれを望んでいる。
「シスター・・。
本当は僕もちゃんと頭では理解しているんだ。
もしかしたら・・僕はとても酷い事を望んでいる人間なんじゃないかって。」
『メイジャ・・・。』
「けど・・・けれどね・・・・。
キャンディは・・・妹は・・・どうして殺されなければならなかったんだろうって・・・。
その想いがずっと僕の本心を動かしてるんだよ。」
『・・・。』
「あんなに笑顔を絶やす事のなかったキャンディが・・。
どうしてあそこまで自分の存在を追い詰めていたのか・・・、
僕は気に掛かって仕方がないんだ。
だから・・・お願い。
僕が・・・その真実を見つけるまででいい。
どうかそれまで・・・・キャンディの体を・・ううん。
『キャンディそのもの』を・・守って欲しいんだ。」
メイジャは強い意志を持って、シスターに向かって訴えている。
それを聞いていたペイとヘヴィレスが、一歩前に出る。
「お願い・・出来ないでしょうか・・。」
「返答・・・。聞かせて貰いたいね。」
そう伝えると、また多少間を置いて、シスターが切り出した。
『・・・了解しました。』
その言葉に、メイジャがほっと胸を撫で下ろした。
「・・・・ありがとうシスター。迷惑ばかりかけて本当に御免なさい。」
『・・いいえ、メイジャ。
迷惑なんて決して思っていませんよ。
キャンディの遺体は何とかしてこちらで預かります。
復元自体に関しては少々時間がいると思うけれど、
全責任を持って私が引き受けます。
・・・・・・メイジャ・・・貴方は・・・本当に・・・。』
「シスター・・?」
声を詰まらせているシスターに向けて、メイジャが首を傾げる。
『・・・・・・本当に・・・・・・・成長しましたね・・・。』
「シスター・・・・・・泣いて・・・いるの・・?」
シスターが、すすり泣く様な声を出しているのは、
ペイにも理解できた。
『・・・いいえ。
泣いてなんて・・いませんよ。
貴方が・・・とても真っ直ぐに生きてくれていた事が、
私は本当に嬉しかったんです。
何よりも・・あの戦争の最中、数ある人が生きていてくれただけで・・、
私は神に感謝しなくてはいけません。』
「シスター・・・。
本当に色々有難う。
今此処に僕がいるのは、シスターが大切に支えてきてくれたおかげだよ。
・・・・・僕は本当に・・・優しい人に巡り合えた。」
『・・・ありがとうメイジャ。
でも私だけではないわ。
貴方には心強い仲間がいますね・・。』
「うん。」
メイジャが電子機の向こうへ笑顔を移す。
『・・・・・・メイジャ。
貴方は本当に心優しく強い子です。
けれど・・・こんな資格私にはないかもしれませんが、
・・・一言だけ・・言わせて欲しいのです。』
「・・・うん。聞くよ。」
『・・・心の片隅で忘れないで下さい。
・・・・これからどんなに大きな障害や、壁が貴方自身を突如、
何処で塞ぐやも解りません。
けれど・・・それでも・・・貴方は決して・・・、
『根底から大切だと信じるもの』を見失ってはいけません。
解りますね?』
「・・・・・・・・はい。とても・・良く解ります。」
シスターが放った言葉は・・・ペイ達全員に浸透していった様だった。
あの頃・・・・自分の母も・・・似た言葉を漏らしていたのを強く覚えている。
とても・・・優しく・・・そして穏やかな声と共に。
「生きる事」
それは・・・存在する者全てが望む事。
ペイも・・・・・・・・その手掛かりを今は追う事を決意していた。
それが・・・・・「自分」としてある理由。
その目的の為・・・・歩むのだと。
「シスター・・・。
限りなく変えがたいお言葉、手中に収めさせて頂きます。
・・・・・どうか・・・・・・宜しくお願いします。」
「まあ・・前者に同感・・・かな。」
『ペイさん・・・・そして・・ヘヴィレスさん・・・・。
どうか・・・・どうか・・・・・・私からも・・メイジャの存在を宜しくお願いします。
メイジャが貴方達をとても大切に感じているのは良く解りました。
どうか・・・支えに・・なってあげて下さい。』
「・・・はい。」
『メイジャにとって・・・機械人間の正式な友人は・・初めてだから・・』
「え?」
ペイは、微かに話した彼女の言葉が、
はっきりと聞き取れなかった。
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