Act...18


「・・・・・・・取りあえず・・・メイジャには気の毒だけれど、
・・・・キャンディの遺体をこのままにはしておけないわ。」

「・・・・・・・うん。」

遺体を見る度に悲しみを隠せないメイジャ。

再度溢れてくる涙を、
どうにかして堪えようと必死の様子だった。



他人に"何かをしてあげよう"などという感情は、
とっくの昔に全て捨て去った筈だった。

けれど・・・・・どうしてもメイジャの存在を見ていると、
何かしなくてはならない予兆さえ感じる。

それも又きっと、
この少年のあまりに健気な姿勢故なのだろう。

・・・・・・・・・人も・・・機械人間も、
何処かでは交わる「感情」という名の檻がある。

「同一線上」を歩むのは到底難しいものでもあるが。

しかし・・・・・メイジャは自然とその道を進む。

それでこそが、
前へと進む肯定になる事をまだ理解していない様だが・・・。



その私の思案をうち砕いたのは・・・・居ても居なくても、
・・・・むしろ居ない方がいい存在の男だった。

「お優しい事で。
まあ、その辺りに関しては僕の管轄外だから、君達に任せるよ。
けれど、一体どうやって運ぶんだい?
ましてや、おぶっていくなんて事になったら、僕は願い下げだけど?
どのみち・・・その状態じゃ無理だろうけど。」

「ヘヴィレス・・・・・アンタ本当に何様のつもり?
その偉そうな態度、なんなら私が自ら立て直してあげるわよ?」

ペイは体内の発電発生器を解除した。
すると、バチバチと電流が流れる。

「ペイ!駄目だよ!危険だから!」

メイジャの掛け声に仕方なく力を抑える。

「・・・・僕は正直な感想を言ったまでなんだけどね。」

しれっとした態度を微塵も隠さないこの男に、
ペイの怒りは堪る一方だった。

「アンタは本当に出来の悪い機械人間ね。
メイジャの目の前で良くそんな事が言えるものだわ。」

「機械が人間に思いやりを持つ理由なんてないだろう。
・・・まして資格さえありはしない。」

「・・・・!」

ヘヴィレスの台詞にペイは、一瞬躊躇した。



・・・・・・・・そうだ。

現に自分自身だって、そうあった筈ではないのか。

機械に生まれ変わってから今まで、
最も感情を殺して来たのは紛れもなく・・・。



「・・・・おや?少し虐めすぎたかい?」

ヘヴィレスは、また意地悪そうに笑う。

「・・・二人とも、喧嘩は駄目だよ。」

メイジャが寂しそうに、ペイとヘヴィレスを交互に見やる。

「・・・・・・・別に・・・・・喧嘩しているわけじゃないわよ、メイジャ。」

ペイは、メイジャの髪を優しく撫でる。

・・・・・・・・そう。

ちょっとした・・・気の迷いに・・・囚われただけだ。

ペイは自分にさらりと言い聞かせた。



「プッ・・・まるで・・・ペイ、君がメイジャの姉の様だね。
<弟の言動を仕方なく受け入れてしまう姉>っていうタイトルでどうかな?
我ながら、なかなか傑作だと思うけど?」

「私、アンタみたいな男、
はっきり言って素直に受けつけられないぐらい腹立つわ。」

「それはどうも。お褒めに預かり光栄だな。
同じ機械人間として精々仲良くしようじゃないか。」

白々しくも表面を取り繕うかの様な、
高慢な態度を維持するヘヴィレス。

「私と関わる事は、
必要最低限内にとどめておいてくれると有り難いのだけど。」

「君はつれないね。」

こんな言葉のやりとりをその都度繰り返しながら、
ヘヴィレスは、確信的な要素を何一つ話す事をしなかった。




「メイジャ・・・とにかくここにどうにかして、
上手くキャンディを処理出来る人材を呼ばなくてはならないわ。」

ペイはメイジャに新たに提案を試みた。

「・・・・うん。
でも・・・一度でも触れてしまったらキャンディは・・・・。」

「それはあくまでもペイが見た客観的視点だろう?
専門の医学者が扱えば、
それなりに形を残す対処は可能だろう。」

「・・・・アンタ、どこまでも私にケチ付けるつもり?」

私はヘヴィレスの意見の否定に抗議する。

「事実を述べただけさ。
実際に機械の処理を見た事はあるからね。」

「・・・・・・・どこまでが真実かしらね。」

「信じる、信じないのはペイの自由さ。」

「先刻から何度も馴れ馴れしく呼ばないで。」

「ペイ、でも可能性があるならそうしよう?」

メイジャが再度上手く切り崩す。



「・・・・・・・ええ。解ったわ。
けれど、この辺りは世界大戦と同時に崩壊してしまったから、
堅実的な取り扱いをしてくれる場所があるかしら。」

「・・・・オマケに、
機械自体を管理する場が何処にあるかって解らないし。
・・・・どうすればいいんだろう。」

メイジャが深刻な表情で悩む。

「・・・・・やれやれ。
IQの高い機械人間に期待したつもりだったんだけどね・・・。」

「・・・・・!?」

ヘヴィレスの意味深な発言に、私は反応した。

「案外大した事なさそうだな。
小さい事にもすぐに発想が聞かないみたいだし。
・・・まあ、大戦の後だし仕方ない。
・・・・けれど、少々宝の持ち腐れになっているのが悲しいかもな。」

「ヘヴィレス・・・どうして私のIQの事を?」

「君と僕の感覚は同じだからさ。」

「同じ・・・?まさかアンタも・・・?」

聞き返す私に咳払いを一つ放つヘヴィレス。

「生憎僕には君のような高度な要素はない。
しかしそれ相応のIQを、基本ラインベースにしている一人さ。」

「・・・・・信用できないわね。」

「ならそれでも構わないさ。
けれど僕達の様に同感覚に近い頭脳構造を持ち、
更に人間機械で自らの躰をそのまま使用されている者達は、
ある一つの共通点で咬み合う事によって
相手の多少の情報部分を知る事が出来るって事くらい、
君も承知の筈だろう?」

「・・・一つの・・・・共通点・・・?」

メイジャが私とヘヴィレスの顔を交互に見つめて呟く。

「そう・・・。
世界大戦後、僕等に手術を施した制作者の事さ。」

「!?・・・ペイ・・・そうなの・・・!?」

「・・・・・私は初めて聞く話ね。
・・・それよりヘヴィレス。
アンタ・・・制作者について何か知っているの?」

・・・・・・・・もしかしたら・・・・何かの次の要が掴めるかも知れない。





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