Act...15


葛藤とは勇ましいものだ。

勇ましいものであるからこそ、
アンバランスで・・・・・掴みきれない。支えきれない。

それでも「言葉」を欲するのが、
・・・・・生きる者なのだと知っている。



「・・・・・・・・・・・・・ペイ。」

まるで疲れ果ててしまった様な脱力さで、
メイジャの方から先に言葉を紡いだ。

「メイジャ・・・・・・・。」

ペイは近くに寄り、あの時のキャンディの様にメイジャの手を握る。



「苦しい・・・・・・・・・・。」

只一つだけ植え付ける台詞。

「メイジャ・・・・・・・・・・メイジャ・・・・・・・・・。」

相対するかの様に、
名前を繰り返し呼び続けるペイ。

「けれど・・・・・・・・・・・・。」

再び瞳を合わせる。

「・・・・・・・・・決して・・・・・・・このままで・・・・いてはいけない。」

辛く、とめどない程に気丈に振る舞い、涙を拭う少年。

「・・・・・・・・・・・ええ。」

鮮明に伝える事で、
まだ歩く事に目を向けられるなら・・・・・・・。



勿論、ペイににとっては、
過去への謝罪であることがおおまかである。

しかし、立ち上がらなければいけない感情は、
メイジャにとっても、肯定しなければならない事。

「御免・・・・・・・。
本当に何度も同じ言葉を使う事を許して・・・・ペイ。
きっと僕はこれから、
何度もこの言葉を使用しては、君を困らせるかもしれない。
でも・・・・・・・・・・、僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「真偽を探すのは・・・・・私とて同じよ。
・・・・メイジャ。」

もう一度、心の底から強く両手で抱き締めた。



「星が消えても・・・・・・・又、灯される・・・・・・・・・・・。」

「え・・・?」

「昔・・・・・キャンディが良く言ってたんだ。
暗記・・・・しちゃった。」

へへ・・・・と力無く笑うメイジャ。

「とても・・・・・・・・・いい言葉ね。」

「キャンディ・・・・・どんな姿でも・・・・・、
君は僕のかけがえのない・・・妹だから・・・・。」

メイジャはキャンディの遺体を見つめ、
ペイに真っ直ぐ向き直る。

「ペイ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・何?
言いたいことがあれば・・・・いくらでも聞くわ。」

「・・・・・・・・・・・僕には、
・・・・・・・・・・・・・・何故・・・・・・・見えたんだろう。」

「・・・・・・・・見えた?」

ペイは、メイジャの言葉の意味が解らず、聞き返す。



「・・・・・・・・放った人間の顔・・・・・・・40代後半の男・・・・。」



「・・・・え?」

「・・・・・・・・・・銃口の角度は、27度下を向いていた。
180センチ以上の男がキャンディを狙った・・・・・。」

メイジャが途切れ途切れに呟く・・・・・・・。

「な・・・・・・・・!」

メイジャは・・・・・・・・銃弾を放った人物が見えていた!?

「メイジャ・・・・・・だって・・・・・貴方は先刻、
私が机の影に押し込んでいた筈じゃ・・・・。
その視界からは、絶対に見えない・・・。」

「・・・・・うん。何故だろう・・・・・。
僕にも解らない・・・・・・。
けれど・・・確かにハッキリと見えたんだ。
正確に言えば、その男の姿がスローモーションの映像みたいに、
僕の意識に流れてきたんだ。」

「映像が流れてきた・・・?」



メイジャは・・・・・・・ペイ達とは違う、完全な人間。

ペイ達機械人間でも、探知機を使用しようとも、
身元画像は鮮明に捕らえられない事が多い。

・・・・・・・・・それなのに・・・・・・・何故メイジャが?



「・・・・・・・・・・僕、キャンディの事を・・・・・・強く・・・・・強く願った。
あの時に感じていたのは只・・・それだけだったのに。
・・・・・・・僕は・・・・・・・・・・憎しみを・・・・・、
持ってはいけないのも・・・・・解っているのに・・・・・!!!」

メイジャが床に大きな音を立てて拳をぶつける。

「その男が・・・・・キャンディを・・・・・殺すことを・・・・、
楽しんでいる心までが入り込んできたんだ!!
・・・・・・・・・・・なのに・・・・・・・・・何も・・・・・・出来なかった!!
只・・・・・・その場の現状に怯えて・・・、
大切な・・・・キャンディを・・・・・目の前で・・・・・っ!!」

「メイジャ・・・・・・!!メイジャ・・・・・・!!
自分を責めてはいけない!!」

ペイは後ろからメイジャを抱き締めた。



「ペイ・・・・・・。
僕は・・・・・キャンディが捕まっていた時でさえ、
手を差し伸べてあげることが出来なかった。
家族として・・・・・兄として・・・・・・失格だ・・・。」

涙が再び、ペイの冷たい手の甲に滑り落ちる。

「メイジャ・・・・・・。
キャンディの事は・・・・・私にも痛い程に理解できる。
けれど・・・メイジャがそこまで自分を卑下していたら、
悲しむのはキャンディじゃないの?
大切な兄が、泣きはらしている姿を見たらきっと、
また、「メイジャってば」って・・・・そう言うわ。」

「ペイ・・・・・・。」

「苦しいときは、"苦しい"と言えばいい。
泣きたいときは、涙を流したいだけ流せばいい。
けれど・・・・貴方は立ち上がらなければならない。
メイジャ・・・・・・解る・・・・・わよね?」



私の瞳を見つめたメイジャが、深く深く頷いた。

「本当に・・・・・・ペイは・・・・・・強い人だ。」

「強くなんて・・・・・ない。」

私は首を左右に振る。

「でも・・・・・・・・強さを秘めているのは・・・・確実だよ。
・・・・・前を行く為の活力をいつも僕に与えてくれる。
いつも僕を救ってくれる。
その度に僕は癒されて、
道を歩んで行くための勇気を持てる。
優しさと強さを兼ね備えているんだ・・・・・ペイは・・・・・。」



「大げさよ、それは。
私だって・・・・・物事に囚われながら生きている身よ。
人に対して"真"に力づける言葉なんて選べやしないわ。
けれど・・・・・・・・・・・誇りや、意志を持って進むことは決して忘れたくはない。
・・・それが私の信念でもあるから。」

「それは・・・・・・・・研究所への思い・・・?」

メイジャが乾いた瞳で、ペイを上目遣いに見上げる。

「それだけが全てではないけれど・・・・・・・今は・・・・・・・そうでしょうね。」

「・・・・・・・・・・・そっか。・・・・・・うん、そうだね。」

メイジャがすっと立ち上がる。

「僕には・・・・・やらなくてはならない事がある。」

メイジャの瞳が日差しと一体化し、光を宿す。

「ええ。
今は・・・・・・行くべき所へ向かわなくてはならないわ。」

ペイも、メイジャに続き立ち上がった。





退