Act...10
「・・・・まあ、大して何があるわけでもない家だけど、
くつろいで構わないわ。
・・・・さ、座って構わないわよ。」
ペイはすぐ傍の椅子を指差し、二人を席につかせた。
「キャンディ、単刀直入に聞くけど、
貴女も・・・・機械人間でしょう?」
二人が腰掛けたと同時に、ペイは切り出した。
メイジャが聞きづらそうにしていた為か、少し驚いた表情になる。
キャンディは真っ直ぐペイを見つめると、
すぐに瞳を伏せ、ゆっくりと言葉を並べた。
「ええ・・・そうよ。私はもう完全な人間ではない。
ペイ、貴女と同じ・・・機械人間よ。」
「キャンディ・・・・やっぱり・・・・。」
「あら?その反応だと・・・・もう気づいていたの?」
不思議そうに首を傾けるキャンディに、ペイは答えた。
「ええ、まあね。
同じ機械人間は生態を把握しやすいから、
私はうっすらと実感した。」
「僕の場合は、キャンディを捜す際に衛生を使った時、
もしや・・・と思ったんだ。」
淡々と語るペイ達の話を頷きながら、
それに耳を傾けるキャンディ。
「そっか・・・・そういうわけね。」
ふっと呼吸を落ち着かせた。
「ところでキャンディ、僕からも幾つか説明してもいい?」
「ええ、勿論よメイジャ。
・・・・・私にも話さなくてはいけない事が沢山あるから。」
ペイとメイジャは、そのキャンディの様子を見て頷きあった。
「まず・・・・・・・キャンディ、君は今まで何処にいたの?
戦争が始まってから、どうやって生き延びていたんだい?」
瞳を覗き込む様にして尋ねるメイジャ。
「・・・・・・いきなり核心を突いてきちゃうのね、メイジャは。」
ふふっと笑いながらも、
先程から少し重たい表情が変わらないキャンディ。
「核・・・心?」
「そう、核心。
一番追求して欲しくない所かも知れない・・・。」
「・・・・・・という事は、それなりに何か理由があるって事よね?」
私もメイジャに引き続き、冷静にキャンディに問う。
「理由・・・・・・そうね。
出来ればそんな物、後にくっついてきて欲しくなかった。」
「何か・・・・辛い理由・・・なの?」
メイジャが、キャンディの手を握る。
「・・・・・・・・・・・・御免なさい二人共。
煩わしい態度をとってしまって。」
「・・・・いいのよ。気にしないで。
でも、貴方の兄であるメイジャは知る権利がある筈。
なんなら、私は席を外すから。」
そう言って立ち上がったペイを、キャンディは軽く腕を掴んで制した。
「いいの、ペイ。
これから話す事は、私と同じ機械人間である貴女にも、
どうしても知って欲しい事でもあるの。
だから・・・・もし私の話す態度が迷惑でなければ、
・・・一緒に聞いて欲しいの。」
「・・・・・・キャンディ。」
うっすらと目に何かを押し込めている様子が、
ペイとメイジャに充分すぎる程理解できる訴えだった。
「"機械人間"に関わる話・・・なの?」
ペイは意を決する様に、キャンディに言葉を放つ。
「ええ・・・。重点的にそれを語る事になる。
・・・・・とても大きな話よ。」
「・・・・・・・・・・・・ペイ、いいかな?」
メイジャからも後押しされて、ペイは再び静かに席についた。
「有り難うペイ。」
二人から同時に言葉を発されてしまっては、動けそうもない。
それに・・・・。
今は"機械人間"の手掛かりが少しでも欲しい。
ほんの些細な事でも構わないのだ。
ペイ自身、自分の扱いにはそれ程不自由している点はないが、
この実体の経歴についてはあまりにも乏しい。
細かく事実を知らなければならない。
周囲から見れば、それはあまりにも一方的で、
意味のない根拠かも知れないが、
何の脈絡もない「人種」を生かした存在を、
どうしても捜索したかった。
「・・・・・・・・・・・・・じゃあ・・・・話すわ。
・・・・これから言う事は全て事実よ。心して聞いて。」
ペイとメイジャ、交互に見つめたキャンディが一度息を吐き、
何かを決意した様に話し始めた。
「・・・・・・・・まず手始めに一つ言うわ。
私のこの体は・・・私自身の物ではないの。」
「・・・・・。」
「・・・・・貴女の・・・・物ではない?」
「正確にいえば、私が戦争渦中で一度人間として死去する寸前から、
自らの意識を別の器に吹き込んだの。」
・・・・・・・・・・・・・・衝撃の事実だった。
「意識を別の器に・・・って・・・。」
「どういう事!?そんな事が可能なの!?」
ペイとメイジャは唖然としながらも、動揺を隠せなかった。
「ええ、可能よ。
ここに私としての意識が入ってる事自体が、その証拠。」
キャンディは自分の胸元に手を触れながら、
その器に注目させる。
「メイジャは当時の人間の時の私の姿を、
覚えているよね?」
「う、うん、勿論。
・・・確かに髪、黒じゃないよね。
それに瞳の色も違うし・・・。
他にも箇所箇所に・・・・相違点がある・・・。
だから、さっき会った時、正直少し驚いたんだ、僕。」
「そもそも、ペイの器は、
私と違って、本来の人間時に生まれたままの体を使用しているでしょう?」
「ええ。確かにこれは機械復元前の私自身の物よ。」
「・・・・・・つまり、私の躰が特異体なの。」
「私の様な存在が通常・・・という事?」
「ほぼそうなるわ。
けれど、数少ない私と似た型がいるのも事実なの。」
説明調に一説ずつを丁寧に話すキャンディに、
ペイ達も疑問を投げ掛け合う。
「そんな事が実際に出来るなんて・・・。」
ペイは思わず額に手をやる。
「そして、それがさっきメイジャが私に質問した答えに繋がっているの。」
「何処でどうしていたか・・・・・」
「そう。
実は私は、この地とは少々離れた地で、
息絶える寸前の瀕死状態だったの。
爆風をあびて、その場から殆ど動けなかった。」
「そこまで重症だったのか・・。」
「ええ・・。
そんな時、医者と似た格好をした何人かの男性が来て、
私を車で運んでくれたの。
私はてっきり病院に連れていってくれるものだとばっかり、
微かな意識の中で思っていたのだけど、そうではなかったの。」
「・・・・一体何処へ?」
メイジャが心配そうに尋ねる。
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