=ACT 2=



「け〜んじくんっ!暇〜ぁ?」

「あ・・・・。」

教室で放課後声をかけて来たのは、
剱司が毎日顔を見るクラスメートの少年達。

・・・例えその表情を見るのがどれだけ苦痛でも。

「まっ、忙しいわけはないよね〜?俺等との約束あるしさっ。」

四人程集まった剱司より背の高い少年集団が、
急いで帰り支度をしていた剱司をぐるっと取り囲む。

「あっれ〜?何?帰ろうとしてるの〜?」

剱司の焦っている様子を見て、
その中の一人が出口への進路を絶つ。

「で・・でも・・今日は用事が・・・。」

「用事?ふ〜ん。悲しい〜。
それって俺等と一緒に遊ぶことより大事〜?」

リーダー各の少年が、俯く剱司の顔を覗き込む様に尋ねる。

「あれれ〜?今日はその可愛い声聞かせてくれないんでちゅか〜?」

業と赤ん坊をあやす様な言い方をする少年を中心に、
周囲のクラスメート達の失笑が響いた。

「ど・・・どうしても大事な用だから・・・。」

「へぇ〜・・・・?」

剱司が震えた声で言葉を漏らすと、語尾を伸ばして少年が笑う。

 

「俺達が遊んでやるって言ってんだろ!!?」



拳で壁を叩き付けた音と、怒号がその場に響き渡り、
その驚きで剱司はその場にへたり込んでしまった。

「剱司君さぁ〜?俺いつも言ってるよね〜?
折角仲良くしようとしてるのに、剱司君全然笑わないなーって。
だから段々俺も辛くてさ〜?」

少年はそう言いながらも全く辛そうな表情ではない。
むしろ、何かを楽しんでいる様な雰囲気だった。



剱司は、入学してから卒業間近まで、クラスには馴染めないでいた。
自らの性格がそれを導いてしまっている事も自覚していた。

ふざけあって、大笑いして、何をするのも一緒で。


剱司はそう言った「馴れ合い」は出来ない性格だった。



『親の愛を知らない。
学校で居場所もない。』

そういう生徒は割合から見て少なくない世の中であり、
自分がそれに該当してる事も気付いていた。

だが、剱司自身にそれを変えようという意欲は全くなかった。


「期待をするだけ無駄」

その感情が体中にべっとり纏わりついていたから。

人間関係では特にそれを自覚していた。





「人の話聞けよてめぇ!!!」


放心した状態から覚めた時、剱司は右頬に強い痛みを感じていた。


そう。

殴られたのだ。


「・・・っ!!」

痛みが一気にじんじんと響く。

気付くと口が切れていた。


「こいつ、倉庫閉じ込めちゃおうぜ。」


少年の最後の台詞はそれきりだった。


剱司は数人の少年に捕まえられ、薄いシャツ一枚で倉庫に連れ込まれ、
嫌がらせの様に冷水をかけられた。

そのまま腕と足を縄で結ばれ、口には布をあてられ、
身動き一つ取れない状態で何度も馬鹿にされ、物で殴られ、足で蹴られされた後、
鍵を締めた倉庫に取り残された。



その日は年度一番の冷えで、雪が降っていた。




どうにかして腕の縄を外し、外に誰か助けを呼ぼうと思った。

しかし周囲にはほぼ汚れて、カバーを掛けられたボールやネットばかり。

そこはもう大分前から使用されていない倉庫だった。


身動きを取りたくても、
体中に受けた暴力により、どんどん痛みが発していた。

血が出てる所から広がり、意識までが朦朧としてきていた。


あまりの寒さの中で、怒りも哀しみも巡っては消えていった。



(助かる事も・・・・無理・・・・。)


一粒の涙も出なかった。


最後に思ったかすかな思考と共に、
剱司はその場で意識を失ったのだった。



その出来事で剱司は「人」を知ってしまった。