=ACT 1=



(・・・・今日は何をしようか。)


朝日が明るく照りつけ、雲の形すらない青々とした天候の中、
剱司は今日も溜息をつきながら、自室の寝台で横になっていた。


・・・属に言う登校拒否を始めて早三年と半月。

今日も目が覚めた頃には、
日中の陽射しがサンサンと照らし始めていた。

何か面白いテレビでもやっているだろうかとチャンネルを回す剱司。

だが、それも望めないと思ったのか、
すぐに諦めてリモコンをテレビの上に投げ捨てた。

上手い具合にテーブルの上に乗っかったリモコンが、
ティッシュの箱に当たり、虚しく床に落ちる。


・・・・そんな他愛もない様な出来事に、剱司は軽く舌打ちした。


「・・・・・つまらないな。」


そう微かに呟いた剱司は、
シャッと音を立て、勢いよくカーテンを端まで閉めた。



その時、自室のドア向こうから微かに音がしたが、
特別誰かの声が聞こえる訳ではなかった。

だが、剱司には今の音が食事の食器が置かれた音であり、
それを持ってきたのが母親である事は解っていた。


毎日決まった時刻になると繰り返される行為。

食事を置くだけ置いてすぐに降りていく。


互いに忠告するのも面倒になったのか、
最近の剱司と母親は、会話一つろくにしていない状態だった。

「・・・・行ったみたいだな。」

その足音が消えたのを耳で確認して、
剱司がドアを数センチだけ開けると、その食事を中に引き寄せた。

「・・・・相変わらずインスタントか。
変わり映えしないな。」



例えば、『息子や妻に冷酷にあたる父親』というのが、
ニュースで流れたとする。

無論よく聞く話で、別段珍しい事ではない。

剱司の父親はまさにそれで、単身赴任を理由に、
家族愛そのものを放棄したと言っても良かった。

よって、それ故に気弱な母親も子育てに関心を示さなくなり、
しょっちゅう夜中まで外出しては、愛人に会いに行っている。

昨日はいつ家に帰ったのか、剱司は気付かなかった。

・・・無論気付いた所で『それだけ』ではあるが。


それ程強くない酒を浴びる程飲み、
涙を流してグチャグチャな顔で帰宅する母親の姿。

それを何度も窓から見ていた剱司は、
極力同情の余地などありはしないと実感していた。

・・・何に対して投げやりかは、もう解りきっているからだ。


剱司はインスタントの食事をスプーンで掬い、
片手で本棚にある漫画本を取った。

しかし、一度その食事を口にした瞬間、
手に取った漫画本がスルッと落ちた。


「・・・まず。水っぽくてドロドロじゃん。」

一口食べたが、すぐに食事の器をテーブルに置き、
曇らせた表情のまま、それを廊下に出した。

「・・・・確か戸棚にまだ買い置きあった筈。」

剱司は即座にドアを閉めると、
横にある収納棚を開け、スナック菓子を一袋取り出した。

「正直・・・こっちの方がマシだし。」

両手で袋の封を開け、そのまま一つずつ口にする。


・・・いくつか量が減ったその袋をテーブルに置くと、
またやる事がなくなった剱司は、再び寝台に背を預け、
暗く重い天井を眺めながら、何度目かの溜息をついた。



「・・・暖房つけてるのに何でこんなに寒いんだ。」

布団をがばっと持ち上げ、それに包まう様に縮まる剱司。




先程一瞬映ったテレビの天気予報は言っていた。

『本日、今年一番の寒波の来る天候になるでしょう。』




・・・こんな日は、剱司の思考に余計な過去が浮かぶのだった。







毎日の繰り返しに、意欲や目的なんて持てなかった。

持とうと思う気力さえなくて、
毎日が鬱陶しくてめんどくさいものだと実感する日々でしかなかった。






思い出したくもない過去程、
時として無常なまでに思い返してしまう。





・・・・・あれは小学校6年の冬頃だっただろうか。






中学への持ち上がりになる面子が多く、
卒業を迎えるまで暇だと感じる時期の事だった。