Act...2


「ふざけんじゃねえぞ!てめえっ!!」

何処からか罵声の様にけたたましく野太い声が聞こえた。

・・・次から次へと縁もないのに「声」に執着される日であると、
深い溜め息を漏らした。



「そっちから勝手にぶつかって来ておいて、
謝罪だけで済むと思ってんのか!?
見ろよ!!血が出ちまってんじゃねえか!!」

「だ、だから・・・今・・・御免なさいって・・・・。」

「謝って済む問題じゃねえって言ってんだろ!!?」

その修羅場らしき方面に近寄ると、先刻の小さな少年が、
どこぞの巨体男に無理矢理絡まれているのが目に入った。



「自分がまだガキだと思って、
目上の者に対する礼儀ってのがなってねえんじゃねえのか?ああ!?」

「や、やめて下さい・・。僕、そんな事・・・。」

少年は完全に怯えており、
足がガクガクと震えてその場に座りこんでしまっている。

どうやらそれが理由でその場から動く事が出来ない様だ。

「完全な人間様なんだからよー、
金ぐらい払えって言ってんだよ!!」

男はその少年の襟を掴もうとした。

「ひ・・・っ!」

その刹那、少年が目を瞑ったのと、どちらが早かっただろうか。



「ぐっ・・・ぐぐ・・・っ!!」

どうやら、ペイの腕に捕まれた鉄パイプが、
その男の頬にグリグリと押しつけられる方が、
数秒ほど早かったらしい。

「くだらない事されると、目に付く上、
気分が害されるんだけど。」

ペイは、感じたままを正直に口にした。



「て、てめえ・・・・!!」

「大体、アンタが血を流したっていうのだって偽の理屈でしょう。
大方、その辺りの機械から流れたオイルに触れたのよ。
その証拠に、機械人間は血も涙も流さない。
この子とぶつかったから・・じゃなくて、
周囲のゴミに向ける配慮がなってないからそうやって、
ブツブツ偉そうに当たるのよ。
いい迷惑ね。」

「な・・・何だと!?」

「それに、上手いこと言うだけ言って関係ないお金まで収集しようとしてる、
醜いその根性が気に入らないわ。」

「・・・この女ァ!!黙って言わせておけば・・!!」

男はすぐ怒りの原点をこちらに切り替え、
鉄パイプを凪ぎ祓い、素手で殴りかかって来た。



ペイはそれを瞬時に避けると、
背後の機械がガラガラ音を立てて、
窪みを作っているのが目に入った。

「馬鹿力・・・。」

「いつまでその減らず口が持つかな?
女だからって手加減なんかしねーぞ!!」

「そんなもの、して頂かなくても結構よ!」

次に蹴りが飛んできたが、又、それも交わした。

「おっ、お姉ちゃん!!」

先程の少年が心配そうにハラハラしながら、
こちらの様子を伺っている。

ペイは「大丈夫よ」という目で少年を見た。



すると、何処からか再び声がした。

「そこーーー!!一体何をしている!!」

遠くから走って向かって来るのは、
人間と機械の警官の二人組だった。

「チッ!!」

男は自分が悪い立場になるのを察知したからか、
身を翻して逃走した。

片方の警官がそれを追って行く。

「フン・・・。性質の悪い・・。」

あれも自分と同じ人間機械だと思うと嫌気が差した。

「お姉ちゃん!!大丈夫!?」

やっと立ち上がれたらしい少年が、近づいて来てペイにしがみついた。

「・・・大事ないわ。」

実際、あの男が機械を崩した時に散った破片が少し頬を切ったが、
特別大きな支障ではない。

さして気にする必要もないと言うものだと、
自分に言い聞かす。



「何があった?」

人間そのものの警官が尋ねて来たので、
ペイは一部始終を簡潔に話した。

「・・・只でさえ、環境が良質とは言えない。
そんな最中で争いはやめろ。
大体、機械人間同士の喧嘩は処理が面倒だ。
これからは充分気を付けろよ。」

「・・・了解したわ。」

何とも、嫌味たらしい言い方ではあるが、
ここで反論しても全く持って意味はないので、
大人しく言葉に終止符を打った。



そもそも一般の人間から見れば、
ペイの様な人間機械は、
どうやら毛嫌いされる場合が多いらしい。

自分達だっていつか、「死」が訪れればこの様になるかも知れないのよ、
とでも言えばそれで納得するのだろうか。



・・・考えても無駄だと悟った。

警官が去った後、
傍にいた少年はおずおずと私から少し離れ、深く一礼した。

「助けてくれて本当にどうも有り難う御座います。
お姉ちゃんがいなかったら僕・・・。」

言葉を選びながら困り切ってる上、更に濁らせている。

「・・・別にお礼言われる程の事なんてしてないわ。
あの男に腹が立ったから行動を起こしたまでの話よ。」



ペイ自身にとっては、機械人間であろうと人間だろうと、
何に対しても別に興味はない。

あるのは自分の過程のみ。

特別、面倒に関わりたくもないし、
至極冷静に言葉を放ち、立ち去ろうとした。

「・・・・キャンディも・・・・キャンディも・・・・・、
こんなに危険な目に遭っていたら・・・どうしよう・・・。」

少しずつ衰えていく様な声になるその少年は、
ペイの目の前でポツポツと瞳から水滴を流出し始めた。



「・・・・」

「キャンディ・・・・何処にいるの・・・・キャンディ・・・・。」

そのまま、膝をついて地に突っ伏す少年。

落ちていく涙がその場に波紋を残していく。

意味もなく快晴な天候によって反射された光が、
その水滴を照らした。

・・・・・・・・綺麗だと・・・・・・・・感じた。

理由があるのか、と尋ねられたらそう答えたであろう。

口というのは感情と連携しているのだな、
等とらしくない事を考える。



今の自分にはやることがある。

・・・・・・しかし、少しばかり回り道をする要素があってもいいかと、
掠める思いが・・・・勝利した。

「・・・キャンディとやらは・・・・・アンタの何なの?」

「え・・・・?」

「二度も同じ事聞く程、暇じゃないのだけど。」

「あ・・・・あ、きゃ、キャンディは・・・・僕の・・・妹・・・・です。」

「血の繋がりのある・・・兄妹って事。」

「・・・は、はい」

急に赤の他人にそんな事を尋ねられたら、驚きもするだろう。

放心した様な表情を向けて、少年はゆっくりと言葉を紡いで行く。



「はぐれてからずっと捜索してるわけ?一人で。他の家族は?」

「・・・・物心ついた時から、一度も姿を見ていないんです・・・。」

「・・・・・・・そう。」

「・・・・。」

ますます声が小さくなっていく。
声が出ていないと言ってもおかしくない。

「キャンディが生きてるっていう確証はあるの?」

「それは・・・・。」

「ないのね。」

「あ、で、でも、僕がお世話になってた場所に手紙が届いて・・・・」

「・・・手紙?」

「キャンディを見たっていう人がいるんです。
宛名は・・・・・書いてなかったんですけど・・・。」

「ふうん・・・。」



どうやら、この少年は何処の誰が書いたかも解らない上、
悪戯で届いた可能性もあるその手紙の内容只一つを信じて、
こうしてこの広すぎる地を探し歩いているらしい。

「相当な変わり者ね・・・アンタ」

「え・・・。あ、はは・・・、そうかもしれないですね。
生きてる証拠・・・確かにないのに。」

「まあ・・・、付き合ってあげてもいいわよ。」

「・・・・・・・・え?」

「さっきからそれしか言えないの?
その<妹探し>とやらに付き合ってあげてもいいわよ、って言ってるの。」

「ほ・・・・・本当に!!?」

表情が一転して、明快な顔立ちになった。



「嘘であって欲しいわけ?」

「い、いえ!!そんな事!!
そんな事ないです!!すっごく嬉しいです!!」

「泣いた烏がもう笑ったわね。」

「でも・・・どうして急に・・・・?」

「さあ?どうしてかしら。
・・・・・・ちょっとした・・・・・気紛れよ・・・きっと。」

「・・・・?」

さりげなく吐いた台詞に少年は反応したらしいが、
特別何も言わなかった。




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